データで見るネパールの教育1:就学編

サルタックが活動しているネパールの教育状況を、最新の教育統計(EMIS: Educational Management Information System)のデータを活用しながら、数回に分けてご紹介していこうと思います。今回は、ネパールの子どもたちの就学状況について解説します。

 

まず、ネパールの教育システムですが、これは日本とは大きく異なっています。ネパールの教育システムは、2年間の就学前教育、5年間の初等教育、3年間の前期中等教育、2年間の中期中等教育、2年間の後期中等教育から成り立っています。このうち、初等教育と前期中等教育を併せて基礎教育、中期中等教育と後期中等教育を併せて中等教育 、と呼ばれています。初等教育は5歳から始まりますが、いずれの教育段階も義務教育ではありません 。

 

就学前教育の総就学率 は、約73.7% となっています。また、男児の総就学率は約74.3%、女児の総就学率は約73.1%と、ジェンダーによる格差が殆どない教育段階だと考えることができます。しかし、地域間格差がとても大きくなっています。Valley地域 では、約130.4%であるのに対し、Hill地域ではその半分程度の約68.8%に留まっています。つまり、就学前教育段階ではジェンダーに基づく就学格差は殆ど無いものの、地域・豊かさに基づく格差は大きいと考えられます。

 

初等教育は総就学率が約130.1% 、純就学率が約95.3%となっています。これは殆どの子どもたちが、実際に通っているかどうかは別として、小学校に在籍できていることを示唆しています。また、男女別に値を見ても、男児の純就学率が約95.9%、女児のそれが約94.7%と殆どジェンダー格差はありません。地域別に見てもほぼすべての地域で純就学率が90%を超えており、ネパールほぼ全土に小学校が行きわたっている状況だということができます。しかし、唯一の例外が西部の山岳地帯 です。ここでは純就学率が約63.7%と、他の地域と比べて極端に低く、教育の量(就学の拡大)の課題が未だに残っている地域だということが出来ます。

 

前期中等教育は、総就学率が約100.6%、純就学率が72.2%となっており、初等教育と比べると依然として教育の量の問題が存在していることを見て取れます。前期中等教育段階でのジェンダー格差も小さく、男児の純就学率は約72.6%、女児は71.8%となっています。一方、この教育段階まで来ると、地域間格差も顕著なものとなってきます。例えば、最も純就学率が高い東部丘陵地域では前期中等教育の純就学率が約79.6%あるのに対し、西部山岳地帯ではほぼその半分の約39.8%しかありません。

 

中期中等教育・後期中等教育を併せた中等教育では、総就学率が約51.7%、純就学率が約32.4%と、基礎教育段階とは異なり、教育の量の面で課題を抱えていることが鮮明になります。特に後期中等教育の純就学率は約10.4%と、ほぼ全ての子どもが高校に進学している日本とは異なり、約10人に1人しか高校に行けていない状況です。中等教育の男子の純就学率は約32.5%である一方、女子の純就学率も約32.2%であり、ジェンダー格差はそれほど大きくはありません。ただし、中西部山岳地域では男子が約45.1%であるのに対し、女子は約30.6%と顕著な差が認められ、基礎教育段階とは異なり、ジェンダー格差の大きさに地域差が見られ、特に貧困地域を中心に中等教育段階での女子教育が課題となっている所もあります。

 

以上がネパールの教育状況、就学編です。まとめると、基礎教育段階では大半の子どもが学校に在籍することができており、ジェンダー格差も大きな問題ではないことが見て取れ、教育課題の中心は教育の質にシフトしてきています。しかし、中等教育段階ではまだ過半数の子どもが学校に在籍することができておらず、かつ貧困地域を中心にジェンダー格差の存在も認められ、依然として就学の拡大が大きな問題であることが分かります。